今回は、前回の「【地政学】社会科知識を総動員!地図から世界を解剖せよ《前編》」の続きになります。
そちらをまだ読まれてない方はそちらから読まれる事をおすすめします。
なお、今回の記事は少々ボリュームがある内容となっておりますので、ご了承ください。
地政学の主な理論の紹介
シーパワー・ランドパワー理論
さて、ここからは、地政学の基礎となる基本的な理論をご紹介していきます。まずはランドパワー理論、シーパワー理論から。
ランドパワー理論は、地政学の根幹を成す重要な理論です。これを説いたのは現代地政学の開祖と言われる19世紀末のイギリスの地理学者、ハルフォード・マッキンダー(Hartford Mackinder)です。
彼の名は地政学を学ぶ上でとても重要ですので覚えておいて下さい。
そもそも地政学においては、大まかに世界を2つの勢力に分けることができます。
中国やロシアに代表されるユーラシア大陸の内陸側を拠点とする国家群「ランドパワー(大陸勢力・大陸国家)」と、イギリスやアメリカ等に代表される、ユーラシア大陸の海岸側と島国で構成されて海を中心に活動する国々である「シーパワー(海洋勢力・海洋国家)」です。
ランドパワー理論とは、言うまでもなくこの大陸国家側の理論なのですが、要約するならば、
「大陸国家は海軍よりも陸軍を重視し、国土を膨張させて支配領域の拡大を目指す傾向がある。世界最強になりたければ大陸国家として重要ポイントを抑えろ。」
ということであると言えます。
大陸国家は古くから強力な陸軍をもち、現在でも農業や鉱工業を基幹産業とします。国境を接する隣国から国土を守り、出来れば国土を大きくしたいと望んでいます。又、自国を何よりも大切にする傾向も強く、外国と馴れ合う事を少し嫌う事も多いです。そして何よりもこの後学ぶシーパワー理論に基づく海洋国家と対決するのが歴史的な宿命でもあります。
この大陸国家に位置付けられる国は、ドイツやロシア、中国等です。
マッキンダーは、最終的にはこれら大陸国家が最強なのだ、と考えていました。
彼曰く、陸地は古来より人間の基本的な生息地であった事から、その重要性というのは絶対的である。故にあらゆる戦争の勝敗を最後に決するのは陸上戦力、即ち陸軍がどれほど強力かに掛かっているんだ!という理論なのです。
しかし、当時、この陸軍が最も大事だよ!というマッキンダーの理屈とは真っ向から反対の理論も存在しました。
それが、シーパワー理論な訳です。この理論はすなわち、
「海洋国家は海軍を重視し、資源を外に求め、それを船で運ぶ航海ルート、シーレーンを確保する事を生命線とする国である。そして世界を制するには海洋国家になれ。」
と言うのです。
世界最強の国になるには海軍を重んじる海洋国家たれ!というのですから陸軍の強さを重視したランドパワーとは相反する意見です。
この海洋国家に位置付けられるのは、アメリカやイギリス、更に我が国日本などです。
強力な海軍をもち、通商や金融で稼いでいます。
通商で儲けるためには、世界の海を自由に航行でき、関税などの障壁がないほうがよいわけで、従って他国とつるむ事を良しとするグローバリズム的傾向が強い国が多いのです。
このシーパワー理論を考え出したのは、同じく19世紀末に生きた人物で、こちらはアメリカ海軍の軍人であったアルフレッド・セイヤー・マハン(Alfred Thayer Mahan)になります。
彼は強力な海洋国家にはシーパワーが必要と唱え、それは海軍力、商船隊、港湾施設などの能力を総合した国力によって得られると説きました。
そして後まで語り継がれる
「海を制する者が世界を制する」
という格言を残し、アメリカを海軍大国の道へと向かわせ始めます。
そして後にこの理論はアメリカ政府に実際に受け入れられ、20世紀からのアメリカの国家戦略の基礎になってゆくのです。
ハートランド・リムランド理論
次にハートランド理論とリムランド理論を解説します。
まずはハートランド理論を見ていきましょう。このハートランド理論を提唱したのは、またまた現代地政学の祖であるマッキンダーです。 彼のこの理論は、後の冷戦期が終わったあとのつい最近まで、アメリカの国家戦略の中枢に位置付けられていました。
現に元米国国務長官(外務大臣)で、2016年の大統領選挙候補者であったヒラリー・クリントン氏は、このハートランド理論の信奉者として知られており、この事からもいかにこのハートランド理論がアメリカ政界で重要視されていたかが伺えます。
さて、そんな大物も信奉するこのハートランド理論ですが、要約するとこうなります。
「ユーラシア大陸の心臓(中心)部を抑えた国が最強だ。」
このユーラシア大陸の心臓部とは、今のシベリア、つまりロシアの真ん中らへんの事を意味し、ここをハートランドとマッキンダーは名付けます。
すなわち、彼の理論で言う最強の国家とは、今のロシアの事になりますね。
ハートランドは当時開通したてのシベリア鉄道が通り、上には北極の氷が広がるおかげで上からの敵の侵入がありません。よって当時ハートランドを抑えていれば、オセロの角に陣取ったようなものであると捉えられたのです。
彼は後にこう言います。
「東欧を制するものはハートランドを制し、ハートランドを制するものは世界島を制し、 世界島を制するものは世界を制する。」と。
それに対してリムランド理論というのは何でしょうか?
リムランド理論とは、世界の地政学的な構造をシーパワーとランドパワーの単純な対決の構図だけで考えることは誤りであるとして生み出された理論で、19世紀末のアメリカの地理学者、ニコラス・J・スパイクマン(Nicholas John Spykman)が唱えました。
そもそもリム(RIM)とは、モノの周辺という意味で、地政学上では大陸の周辺に存在する半島や島嶼(とうしょ)等を指しており、リムランドは、北西ヨーロッパから中東、インドシナ半島までの東南アジア、中国大陸、ユーラシア大陸東部に至るユーラシアの沿岸地帯を指し、ハートランドを覆うように三日月地帯を形成しているのが特徴の地域です。
ここはユーラシア大陸の周縁部にあって海洋から近接することが容易であり、農業生産に適した穏やかな気候のため人口が密集しやすいと言われており、彼はここを独自にリムランドと名付け、そこがランドパワーとシーパワーの両方の影響を受ける地域であると判断しています。
リムランドに勢力圏を構築した大国は、必然的に大陸方面と海洋方面の両方の脅威に対処する必要が生じますが、その脅威にはランドパワーとシーパワーの対立という側面だけではなく、リムランドの内部で展開される対立も含まれています。
スパイクマンはランドパワーとシーパワーの間に起こる紛争がすべてこのリムランドで発生していることから、リムランドこそ最も重要な地政学的地域であると主張します。彼は後に「リムランドを制するものはユーラシアを制し、ユーラシアを制するものは世界の命運を制する。」とまで言い、リムランドの重要性を訴えました。
それ以外の代表的な用語解説
・世界島
一般的に地理学においては、南北アメリカ・オーストラリア大陸を除いて、ユーラシア大陸及びアフリカ大陸を一括りにアフロ・ユーラシア大陸と言い、地政学においては、このアフロ・ユーラシア大陸の本体そのものを一つの大きな島として見ます。
これを世界島(せかいとう、World Island)と呼びます。
第一次世界大戦後、マッキンダーが唱えました。
・新世界と旧世界
地政学においては、アフロ・ユーラシア大陸(ヨーロッパ・アジア・アフリカ)及びこれらの周辺の島々を総称して旧世界と言います。
逆に、ヨーロッパ目線で言う所の、後に発見された南北アメリカ大陸及びオーストラリア大陸等を総称して、新世界と言います。
良く旧世界対新世界と言うような対立構造を指すときに使われる言葉です。
・シーレーン
貿易を行う際、船がより短い時間で通れる海上の航路があり、ここは国家の通商上・戦略上、重要な価値を有する為に、有事に際して確保すべき海上交通路としてシーレーンと称されます。
シーレーンに頼っているあらゆる国は、このシーレーンを抑えている国に対して強く出る事が出来ません。
何故なら、強く出たお返しにシーレーンを封鎖されては、自分達の国に食料や燃料が入って来なくなり、国家として破綻してしまうからです。
・チョークポイント
地政学上における、重要な航路が集束している部位や貿易用の運河を始めとした水上の要衝を意味する言葉で、広くは国家戦略的に重要となる海上水路の事を指します。
有名な場所では、海峡ではマゼラン海峡にジブラルタル海峡、運河ではスエズ運河やパナマ運河等が挙げられます。
・シャッターベルト
歴史上、紛争が良く発生する地帯を、地政学上ではシャッターベルトと言います。
特に大国の狭間にあって、脆く、非常に分裂されている地域であり、国際政治の前線のような場所と捉えて良いでしょう。国際情勢の変化によって新たに発生することもあれば、勢力関係の変化によって既存のシャッターベルトの位置が変わることもあります。
そういう意味でいくと、今現在有名なシャッターベルトはコーカサス地方等であると言っていいでしょう。
なお、シャッターベルトは流動的であり、今自分の住んでる地域がシャッターベルトでは無かったとしても、後世ずっとそうであるとは限りません。
・グレート・ゲーム
元々は中央アジアの覇権を巡る大英帝国とロシア帝国の敵対関係・戦略的抗争を指し、中央アジアをめぐる情報戦をチェスになぞらえてつけられた名称でしたが、現在の地政学においてはもっぱら、世界島の動きを支配するランドパワーとシーパワーの二つの勢力のせめぎ合いを指す言葉となっています。
・バッファーゾーン(緩衝地帯)
利害が対立する大国の間に位置し、そこで勢力が拮抗した時、大国同士の直接的衝突を和らげたり、防いだりする地位にある小国や共有地域、中立国等の事です。
この記事では特に、緩衝国(かんしょうこく)と呼ばれる、シーパワー勢力とランドパワー勢力の狭間に位置する、小国や中立国について取り上げます。
緩衝国は小国の地理的位置から生まれますが、第二次世界大戦の時のポーランド(ナチス・ドイツとソ連の緩衝国で、今でもEU圏とロシア圏の緩衝地域です。)のように、拮抗が破れると大国に侵略されたりもします。
又、緩衝国は大国間の対立のなかで小国が生き残るための一つの方策でもあります。例えばかつてのタイ王国は、英仏の植民地の間の緩衝国となる事で、上手く独立を保ちました。
それと、ごく稀にですが、人工的に緩衝国が設置される例もあります。ロシア内戦時の極東共和国(ソ連と日本との間に人工的に作られたソ連が主導して創設した緩衝国で、大統領はクラスノシチョーコフでした。)等はこれに当たります。
その他にも様々な用語があるので、ぜひ調べて見て下さい!
地政学を学ぶメリット
基本的な構造が分かりやすいから始めやすい
地政学は基本的な構造がとても分かりやすいです。海対陸、旧世界対新世界。とてもザックリとしていて、ごく簡単な歴史の知識とある程度の教養、そして簡単な問題を理解出来る頭があれば誰でも身に付けることが出来ます。
物理や世界史を、それに特化して一からやろうと思ったら大変ですが、地政学ではお手軽に始める事ができ、一年もしたら、賢い学者になった気分を味わえます!
今の世界のメカニズムを冷静に観察できる
何よりも地政学は、今の世界のメカニズムを冷静に観察できます。今の世界、色んな情報が飛び交ってる中で正しい情報を選んで、取捨選択する事が大切です。
その中で冷静に世界を観察出来ていれば、変な言葉に惑わされること無く、正しく国際情勢を見抜く事が出来ます。これはあなたにとって、欠かせないスキルとなるでしょう。
戦略的思考が深く、確実に身に付く
地政学は国家戦略として現役の学問です。
第一級の戦略的思考が身につきます。
世界がどう動いているのか、その応用として色んなシチュエーションでもリアリスティック且つ戦略的に物事を考える事が出来るようになるでしょう。
地政学を学んでみよう!
世界の戦略をロジカルに、戦略的に、そしてリアリスティックに考える事が、地政学への第一歩です。
国際情勢は、常識的に有り得ないと言われた事でも、物理法則に反さない限りはなんでも有り得る世界です。
だからこそ、世界を分析する事は面白いし、やめられない。
皆さんも、地政学を学んで、戦略的でリアリスティックに世界を見る眼を養ってみてはいかがでしょうか。
ここまでご覧頂き、ありがとうございました。
この記事を書いたライター
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