※この記事は2019年2月にハチ東京の名義でnoteに投稿されたものです。
私は、関西の田舎に生まれ、青春をそこで過ごし、そして大学から晴れて夢だった東京に進学した。だが、喜びもつかの間、その後、地方の育ちと東京の育ちの格差を何度も味わうことになる。東京には地方にいたのでは気づかない、見えない壁がそこにはあり、その壁に何度も苦しめられ続ける。
第3回では、結論として、AI時代に親が子供に出来ることについて書いていきます。
第1回:既に決まっている2020年教育改革の”失敗”
第2回:”見えない壁”に阻まれた 地方と東京の圧倒的格差
第3回:それでもAI時代に輝く、都内進学校の”文化資本”と”ネットワーク”(★)
※文章中で触れられる都内進学校とは、筑駒/ 開成/ 麻布/ 筑附など、自由闊達な校風と比較的高い偏差値を持つ中学/ 高校のことを指します。
7.それでもAI時代に輝く、都内進学校の”文化資本”と”ネットワーク”
AI時代を生き抜くための”三種の神器”
ではAI時代を子供が生き抜くために必要なものとは何であろうか。
それは「課題設定能力」「文化資本」「ネットワーク」、この3つであると考えている。
1つ目の「課題設定能力」とは、「自ら課題を設定」し、「答えの無い問いに試行錯誤の中で答えらしきものを見つける」能力である。従来は「問題解決能力」が重視されていたが、これからは本当に解くべき問題自体を設定する能力が重要になると考えている。AI時代は不確実性が高まる。不確実性の中では、与えられた課題が気づけばすぐに課題ですらなくなっていることが多く、そもそも本当に解くべき課題は何なのかを自ら定め、クイックに挑戦して修正していくことが求められる。
2つ目は「文化資本」である。ここで言う文化資本とは、自然科学だけでなく、芸術や文学、歴史、経済など、幅広い領域に対する理解だけでなく、特定のクラスターにおいて使用される共有言語や振る舞い、(いわゆるハビトゥス)と呼ばれるものを身につけていることを指している。
単一の確実な答えのないAI時代においては、自然科学だけでなく、芸術など様々な文脈から目の前の現実に活用できるエッセンスを発見し、適用することが重要となってくる。当然ながら、ネットには答えはない。色々な複合的な事例やひらめきを組み合わせて、ことに臨んで行く底力が必要だ。
社会を見回すと、社会や会社を変えるようなスタープレーヤーはかなり高い割合で、文化資本を持っていると感じることがある。例えば、Google(米)やFacebook(米)に入るためには確かにSTEM教育を受けている必要があるが、Googleで活躍しているのはSTEM教育の機会に加え、文化資本も持ち合わせている人、といった印象だ。プロダクトの方向性を考える創造性、人をうまく使いこなす人間性などは文化資本に影響されているように感じる。
また、特定のクラスターからネットでは流通しない情報を入手するには、そのクラスター内で通用する共通言語やモードを理解し、身につける必要がある。同じモードを持っていないと、重要な部分を話す仲間に入れてもらえないのだ。特に、文化資本に関するモードは、大人になってからは身に付けることが難しいことが多い。生まれからお金持ちで育った人と、努力してお金持ちになった人、成金とは振る舞いや考え方が違うのは、このモードが違うことによるものだ。
最近、言動やtwitterで世間を騒がしているZOZO社長の前澤さんは時価総額1兆円近くある会社のオーナーであり、文字通りの富裕層だ。100億近い値段の絵画や、京都の伝統ある某所のお屋敷を購入したり、1億円をTwitterで配ったりしているが、お世辞にも品があるとは言い難い。バブル期に日本人がアメリの不動産や美術品を買いまくった時と構図は全く変わっていない。
3つ目は「ネットワーク」である。これからの時代はチームとして動けることが必須だ。各人が明確な役割と責任を持ち、目標に向かって各人が能力を発揮する必要がある。自分とは違う能力を持ち、違う視野とネットワークを持った人を集める上で、都内進学校出身者は非常に純度が高いネットワークとなる。更に、後述するが都内進学校には政界、財界に非常に強固な卒業生ネットワークを保有しており、その学校の卒業生ということだけでミウチとして認められ、様々な便宜を図ってもらえることが多い。
1つ目は必ずしも都内進学校しか身につけられない能力では無いが、2つ目と3つ目は都内進学校の方が圧倒的に身につけやすい能力であることは間違いないと言える。これが、それでもなお現代において都内進学校への中学受験を勧める理由である。
都内進学校の文化資本を身に着ける”底力”
都内進学校が有利であるのは、都心にある様々な文化施設や本屋さんといったハード上の文化資本を得る機会もさることながら、実は「自分が興味関心のある分野に、すごく興味のある友だちに会えること」「どんな分野においても、すごく興味関心が高かったり、詳しい友だちに会える」といったソフト面の文化資本を得れるところにある。
地方であれば、暴論すれば、男性ならアイドルかゲーム、女性ならせいぜいジャニーズくらいしか話題として認められない。当然、都内進学校であっても上記が話題の中心にはなるのだが、専門的な特殊な話題が認められるか否なのだ。自由な雰囲気の中で、自分の興味ある分野で同じ関心を持つ友人と切磋琢磨し合い、全然知らない様々な領域の面白い話を友人から聞いて育つことが出来る。しかもその気になれば、学術分野であれば、その分野の権威の人に連絡を取って会うことも可能であろう。こうして、自由闊達な雰囲気の中で、互いに尊敬し会える友人との切磋琢磨のもと、豊かな文化資本が形成されて行く。
都内進学校で6年間をともに過ごし、ある種”純粋培養された”人間関係は、高校を出てからも非常に強く続く。実際、都内進学校の卒業生の愛校精神は非常に強く、大学に入ってからも、結構な割合の生徒が、都内進学校時代の友人とつるみ、またその先輩から様々な情報やネットワークを紹介され、大学生活も地方から進学した生徒に圧倒的な差をつけてしまう。当然、地方から進学した生徒は本当の意味で仲間に入れてもらえることはない。そして彼らは他の人より圧倒的に有利な情報量とネットワークを以て、就活も卒なくこなし、就職していく。
近年はかなり年齢の若い段階で起業することが増えているが、起業時のメンバー集めにも東京にある幅広いネットワークから集められる。まずは都内進学校で仲の良かった人たちから集められ、大学で知り合った人は優先順位としては劣後になることが多い。そして政界、財界には都内進学校の卒業生の先輩が幅広く存在しており、初期の顧客探しやマーケティング、規制改革に強力な力を発揮している。”都内進学校マフィア”は表立ってはいないが、確かに存在している。「開成会」の最強人脈 灘「担任団は誰や」で親密に | ザ・名門高校 すごい卒業生人脈約580億円分の仮想通貨「NEM(ネム)」を流出させ、経営危機に陥った仮想通貨交換業者コインチェッ…premium.toyokeizai.net
確かに、地方には文化資本とネットワークが全く無いわけではない。地方においても戦前にはいわゆる”地方豪族”が栄えており、地方の大きな美術館には彼らの信念に従い、収集した美術品などを展示したり、伝統的に栄えてきた家から寄贈を受けた伝統的な工芸品などが飾られていることが多い。
岡山県倉敷市の大原美術館はその代表例だ。エル・グレコの『受胎告知』やモネの『睡蓮』なんかが飾ってある。戦前は現代ほど東京一極集中ではなく、地方にも都市と文化があった。
だが、現在は、正直文化資本を得る機会の差はどんどん広がっているように感じている。街にあった本屋は次々と潰れ、週末に図書館や美術館に行く家庭はいったいどれくらいあるのだろうか?そういった施設が潰れ続けた結果、郊外のイオン周辺のチェーン店でしょぼい時間を過ごすだけである。地方にはどこの街にもある風景が広がっているだけで、正直、街の特色なんて殆どない。文化を持った特定の地方でも、様々な種類のチェーン店に文化的にハックされ、どこの街にいっても、同じ風景が広がるだけになってしまった。
ネットワークに関しても、地方進学校出身者の多くは、進学時にバラバラとなって全国に散り、もう一度大学や就職先でゼロからネットワークを作り直さなければいけない。実にハードな生き方を強いられる。
8.AI時代に親が子供に出来ること
私は地方の進学校を出て、意気揚々と東京の大学に進んだが、大学生活の前半は、失敗の連続だった。突然の自由に戸惑い、遊び呆けて大学の成績はガタガタ、複数のサークルを彷徨って居つけず、自分の行く末が定まらず悩み、生活もマトモに出来なかった。
正直、東京に進学するまで大学生というものを殆ど見たことなかったから、大学生の生活がどんなものかもわからなかった。大学生になってからのあまりの自由さに驚き、直ぐに新しい刺激にかまけ、授業にも行かなくなった。(結果として成績は悪くなった)
今から思い返すと、都内進学校の人たちは、遊んでいるように見えて、超えていけないラインやものごとを卒なくこなす方法を知っていて、大学生活もうまく乗りこなしている感じであった。
進学校との差を感じたことはもっとある。進学したての頃、家庭教師のアルバイトは割がいい(時給3000円~5000円)ということで、周りの人が結構やっていたので、私も登録してみたのだが、全く採用されない。採用されない以前に、応募要件で落とされる。都内進学校に子供を進学させるための家庭教師は、都内進学校のことをちゃんとわかって進学もしている大学生しかさせたくないのが親の気持ち。地方出身者は戦いのスタートラインにすら立たせてもらないのだ。
そもそも地方進学校では機会すら与えられないことすらある。東大王で活躍されている鈴木光さんのインタビュー記事でこういった発言があった。
(2ページ目)「美しすぎる東大王」鈴木光が初めて語った、麻布高校の男子と過ごした青春時代 | クイズです | 文春オンライン“スタンフォード大学が認めた才媛”。『東大王』で一躍クイズ界の新星として注目される鈴木光さん。ネットを騒然とさせた、眩しすbunshun.jp
――次の年にも挑戦しなかったんですか?
鈴木 国際会議に学校代表として派遣されることになって、日程の都合がつかなかったんです。
――国際会議?
鈴木 日本からは、筑波大附属高校と麻布高等学校のみ参加資格を与えられている、毎年シンガポールで行われているサミットです。私が参加した年は丁度戦後70年にあたり、日本チームに与えられたテーマは「真実と和解」。世界12か国の高校生と先生達に10分間のプレゼンをしなければなりませんでした。麻布の子たちも一緒に週3、週4ペースで会って、討論して、打ち合わせして、パワーポイントで資料を作るみたいなことしてました。
こういった課外学習の機会は、生徒の受験勉強の妨げになるということで、募集が学校に来ても、そのまま握りつぶされることも多い。
このように、都内進学校とそれ以外の学校にはあまりの格差が存在している。しかし、それが多くの場合、可視化されないのだ。地方進学校の生徒が牧歌的な世界観の中で、しこしこと受験勉強という「クイズ選手権」に盛りがっている一方で、都内進学校の選ばれた生徒たちは世界最高峰の同世代とともにチームとして課題に取組むトレーニングを行っている。そして晴れて大学に進学した時、同じ入試を受けて同じ大学に進学したはずなのに、入学時点で既に愕然たる差がついていることに気づく(あるいは、そもそも気づかない人もいるかもしれない)。スタート地点が地方から大学と中学から都心ではぜんぜん違うのだと。
更に言うと、これからもっともっと日本の地方と世界との差は広がっていく。自分の子供が地方の進学校で必死に勉強して東大に進学できたとしても、進学した時に勝負はぜんぜん違う違うところで決まっていたことに気づいた時、自分の子供はどんなにショックだろうか。私の子供には、そんな辛い思いをさせたくない。
中学受験で得られる「地方では得られない機会と環境」
幼稚園/ 小学校受験は如実に文化資本を見られるため、正直、地方から受験するのは難しい。逆に、高校/ 大学受験は本人次第なところが大きく、親の関与余地が限られる。私は、中学受験とは、フェアな勝負の中で、両親が子供に協力出来る最初で最後の機会であると考えている。
例えば、日本銀行の黒田東彦総裁は地方に生まれたが中学受験によって都内に進学し、その後大きな成功を収めた人物の一人だ。黒田さんは福岡県大牟田市に生まれ、父親は公務員、中学受験のため移住して、筑駒に合格、東大を経て大蔵省の財務官僚エリートコースを歩んで、日銀総裁に至った人だ。黒田さんの今までとは全く違う金融政策パラダイムに挑戦する勇気、優れた国際感覚は、都心の自由な気風の環境で育った部分が大きい。九州の地方進学校に進学していれば、同じ東大に進学していたとしても、その後の人生は変わっていたと思われる。
私は、地方に生まれても、都心の中学受験をさせるべきだと思っている。不確実性の高まるAI時代においては、日本の教育制度で涵養される能力では対応できないのは当然だし、そもそも入る学校によって子供の「見える世界」や「受ける教育の質」は驚くほど異なると思うからだ。「いい大学に入れる」ために都心の進学校に子供を入れるわけでは無い。それであれば地方進学校で事足りる。むしろ「地方では得られない機会と環境を獲得」させるために都内の中学受験をさせるのだ。
地方を出て、東京に行こう。
第1回・第2回の記事はこちらからご覧ください。
・第1回: https://tokyojyuken.jp/atarimae-jyuken1/
・第2回: https://tokyojyuken.jp/atarimae-jyuken2/
この記事を書いたライター
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