[第一回]
都内進学校の校長先生に現役生がホンネを突撃インタビュー!
第一弾は日本で最も東大への合格者数が多い開成学園の柳沢幸雄校長です!
柳沢校長ロングインタビュー第一回では、設置が増え続けている中高一貫校の意義に加え、柳沢校長の考える日本が置かれている現状認識、近年増えている海外大学への進学の意義についてお話を伺いました。
#1:グローバル化が喧伝されるのは、未来が輝いていない時代だから (★)
#2:親は子供に「餌巻き」をしろ!
#3:AI時代だからこそ、唾の飛ぶ距離の授業を大切にする
自分の人生を懸けて挑戦したいことは見つかっているか
―今年も開成高校の東大合格者数は全国1位となり、平成は全ての年で1位といった記録を打ち立てました。
今年は開成高校から東京大学に186名が合格しました。卒業生数が400名程度なので、5割弱くらいが東大に進学していることになります。また、海外大学への進学についても、今年の実績はまだ計測中ですが、昨年度はYaleやUCLAなど、名門校に10名近い合格者を輩出しました。
―近年でも公立校などを中心に、中高一貫校の設置が目立ちます。改めて、現代における中高一貫校の利点は何でしょうか。
中学は普通、高校受験を前提とするため教育に制約が生まれてしまいます。今の時代に中卒で浪人というのは社会的に許されないため、どうしても学校として高校受験を見据えざるを得なくなります。中高一貫校ではその制約が無く、中学時代の教育の設計を自由に出来ることが最大の利点ですね。
他にも利点があります。開成学園では先生が中高6年間持ち上がります。やんちゃな中学生も、高校生になれば大きく変わるかもしれません。そういった生徒を6年間といった長い目で余裕を持って育てられることが中高一貫校の良いところだと思います。生徒の成長を時間の流れとして捉えることが出来ます。これが中学で3年、高校で3年といったぶつ切れだとそうはいかない。
また、開成学園では部活動も中高一貫です。やんちゃだった中学生も、高校生になり指導する立場になると、自律が出来るようになっていきます。教えることは頭の整理です。人に教えることで、さらに自分もわかるようになり成長します。高校生が中学生に教える場を作れる、というのも中高一貫校の利点でしょう。
最近は中高一貫校が増えており、私にもよくアドバイスを求められます。その時に必ず言っているのが、先輩が後輩を指導する校風を作ることが重要、ということです。そのためには、先輩と後輩の仲がいいことが大事で、知識の伝達を行う場があることが大前提になってきます。開成では先輩が先輩風を吹かせることもありません。その点でもよい校風だと思っています。
―良いことばかりの中高一貫校のようですが、死角は無いのですか。
中高一貫校に通う生徒は、親も含め、「価値観を改める」ことが出来なくて苦労する人がいます。受験というのはイス取りゲームのようなものです。限られた席しか用意されていない中で、相対的に早く椅子に座る=ペーパーで点を稼ぐこと、が求められます。中学受験をする人たちはかなり早い時期からこのペーパーの点数の競争で勝ち抜く思考様式=価値観がインプットされます。しかしながら、社会に出た後ではペーパーの点数が高い=勝ちといった構図が必ずしも成り立たないことがたくさん出てきます。更に、自分自身でどのイス取りゲームに参加するのかを決めなければなりません。長い人生を生き抜いていくためには、「自分の人生を懸けて戦う領域」を探し出し、選ぶことが必要になってきます。
受験のような競争意識から自らを一旦引き剥がし、将来について十分に考える余裕があるのが中学生という時期です。人によって生まれ育った環境や性格は違うので、自分に合ったことを見つけることが重要です。開成が終わったら次は東大、ではなく、その先の長い人生を見据えた教育が重要だと考えています。
―開成学園の大学より先を見据えた教育、とはどういった考えに基づいてなされているのでしょうか。
東京だけでなく、地方にも入試に特化した学校はたくさんありますし、開成も昔はそうだったと言われることがありますが、実際は時代に合わせ、生徒の成長に何が必要かを考えてやっています。
開成の教育のゴールは「開物成務」、つまり一人ひとりの素質を見極め、花開かせる、彼らが社会で役割を果たせるようにサポートすることです。これは昔からずっと変わりません。
生徒が育つ環境は時代によって変わりますが、求められるもの・到達すべきことは変わりません。特に、私学校はどこもゴールは建学の精神です。しかし、教育方法は時代によって変わりますね。生徒が生きていく背景も時代によって変わります。開成学園は一人ひとりの生徒がどうしたら花開くかを試行錯誤しながら教育しています。時代の変化を読みながら教育方法を変えているわけです。
グローバル化が喧伝されるのは、未来が輝いていない時代だから
―開成学園は時代の変化を読みながら教育方法を変えているとのことですが、柳沢校長は今の時代を大きくどのように捉えているのでしょうか。
グローバル化が叫ばれる現代ですが、歴史を紐解けば真新しいことではありません。「グローバル化」という言葉を、日本語で「広域化」という言葉で捉えると現状を捉えられるかもしれません。近代以降の日本には3回、おおよそ50年ごとに「広域化」のトレンドが到来しています。
一度目は1930年代の満州進出時代です。当時の日本は帝国主義に基づく拡大政策を取っており、満州や南洋州を中心に、多くの日本人が海外に移住しました。
二度目は1960年代の東京オリンピックの頃です。日本の産業構造が変化し、一次産業から二次産業に産業の中心が移行する中で、農村から都市へと「金の卵」と呼ばれた若者が多く移住し、工場労働者として日本の産業発展を支えました。その人たち=金の卵が出会ったのは、言葉(方言)・食事・人間関係が田舎とは全く違う環境でした。当時は、青森から夜行で12時間かかりました。今の時代は半日飛行機乗るとニューヨークに着きます。今言われているグローバル化という動きは50年前の集団就職と本質的には変わらないのです。
三度目が我々の生きる2010年代です。従来は海外とは一部の企業や個人の話でしかなかったものが、国内市場が縮小し、更に外国からの移民や観光客も増える中で、いよいよ多くの企業や個人が考えざるを得ないテーマとなってきています。
広域化のトレンドが到来する時代に共通するのは、未来が輝いていない時代であることです。
例えば、戦前の満州進出は不作の時代に起きました。東北を中心に未来に明るい未来を描けなかったため満州に移住したのです。一方で、1980年代のジャパン・アズ・ナンバーワンの時代は未来が輝いていたので日本に留まる人が多かった。今の時代は多くの若い人にとって暗い未来しか描けないのでしょう。ゆえにグローバル化が叫ばれている。未来が明るければ移住しません。
地方から東京に進学することは、今まではあまり一般的ではありませんでしたが、相対的に地方が衰退する中で、ある種の「広域化」の流れとして、選択出来る人にとっては可能性を広げる良い選択肢になると思います。
海外大学でしか見つけられない「人生の選択肢」がある
―開成では最近では日本の大学に進学せず、直接海外大学に進学する生徒も増えてきています。三度目の広域化の時代(現代)における、海外大学への進学の意義は何でしょうか。
近年では殆どの人が経験したことのないため、”Unknown”の要素が強いけれど、明るい未来はあるかもしれない。ハイリスク、ハイリターンですが、挑戦する価値のあることだと思います。海外に行くことで、日本では得られない「選択肢」を得られる可能性があります。当然、語学能力も身につくでしょうし、日本には存在しない職を得られるかもしれません。先程から強調している、日本では見つけられなかった人生をかけて挑戦すべきことを見つけられるかもしれません。
―柳沢校長も大学卒業、民間企業で暫く働いた後、米ハーバード大学に奉職なされました。
私はそもそも環境問題についての研究に取り組みたかったのですが、当時の日本は高度経済成長の真っ只中のため、公害問題の追求は経済成長の邪魔とされ出来ませんでした。海外大学に奉職したからこそ研究出来たテーマだったと思います。こういった、日本では出来ないけれど海外なら出来る/ 価値を見出されるとったテーマは現代でもまだまだあると思います。
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#2:親は子供に「餌巻き」をしろ! に続く(7月23日公開)