矢野耕平さんインタビュー後編~教育の最終目標は~





 今回は、中学受験塾スタジオキャンパスの代表であり、教育についての情報を様々なメディアから発信されている矢野耕平さんに、インタビューを行わせていただきました。

前編:矢野耕平さんインタビュー前編~国語で何を学ぶのか~
後編:矢野耕平さんインタビュー後編~教育の最終目標は~

後編では、中学受験の意味と子供のモチベの上げ方。さらには教育の最終目標とはなにか?スタジオキャンパスの理念である「自ら教わり育つ、たくましい人間の創造」の本当の意味とは?中学受験に関する深い話に迫っていきます。ぜひ最後までご覧ください。

矢野耕平さんプロフィール

1973年東京都生まれ。中学受験専門塾スタジオキャンパス(自由が丘・三田)代表。国語専科博耕房(自由が丘)代表。
著書に『中学受験で子どもを伸ばす親ダメにする親』(ダイヤモンド社)、『男子御三家 麻布・開成・武蔵の真実』『女子御三家 桜蔭・女子学院・雙葉の秘密』(ともに文春新書)、『LINEで子どもがバカになる』(講談社+α新書)、『早慶MARCHに入れる中学・高校』(朝日新書)など9冊がある。

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インタビュー

中学受験の究極的な意味とは

りん:では、そもそも中学受験の意味とは何でしょうか?そして、そんな中学受験を通して何を学び取るべきでしょうか。

矢野:中学受験だったら国語算数理科社会の4科が入試で課され、その合否はペーパーの合計得点で決まります。そういう意味では限りなくフェアな選抜方法を採択している。つまり、本人がどれだけ「勉学」に打ち込んできたかが試されるのですね。

K太郎:なるほど

矢野:そして、中学受験の中で身に着けてほしい姿勢とは「自立」です。ある男子校の英語の先生がずっと言っていたのは「中学受験の後、中学1年生夏超えると成績が伸びる子と成績が落ちる子がいるよね。それはどうしてか。中学受験の時に親が付きっきりで学習管理されていた子は落ちる子になってしまう。」

ちなみに二人の親御さんは中学受験の時どんな感じでした?

りん:いやまったく干渉はなかったですね。

K太郎:僕もまったくです。

矢野:結局、親が子供の勉強をいかに遠くから見守れるか。それが大切だと思うのです。一方で、”親が”塾の膨大なプリントをファイリングしたり、勉強計画立てたりしたら…というと、確かに『偏差値』を高めることはできるでしょうね。でも親からしたら中学受験の合格がゴールになっている。とある男子校の先生は「お父さんお母さんが中学受験で勉強見るのはいいですよ。でも、そうするなら大学受験までずっと面倒を見るんだという覚悟を持ってほしい。」その中学校の先生はこれが本心なんですよね。出来ないからやめた方が良いって。

また、子供に勉強を”苦役”にさせるべきでないと思います。勉強したらご褒美みたいなのはあまり好きではないんですけど、その理由は「子供が勉強したことに褒美を挙げている時点で親のためになっている、これは殿が家来に褒美を渡すのと一緒。」”どうして子供の偏差値が上がったから親は子供にご褒美をあげるの?”と言ったら、親にとってなにか役に立ったからですよね。そんな中では子供は勝手に勉強は苦役だと思ってしまう。

そもそも勉強は非常にぜいたく品であるし、楽しいもの。例えば公民の勉強とかしてれば、テレビニュースを見ていていろいろ分かります。勉強によって広い視点が持てるし、勉強というものは本来excitingな物だ。それを受験生にも感じてほしいです。

りん:(受験の意味として、)受験勉強で知識を詰め込んだ後、その知識を生かして自分で考えさせるという側面もありそうですよね。

矢野:そうですね。だからこそ、親御さんには子供中心でやらせてほしいなとは思いますけどね。

ウチの娘が周囲からよく言われていたのが「いいわね、お父さん塾の先生だから見てもらえるわね」ということ。しかし、勉強面などほとんどタッチしてませんよ。いま述べたことが理由でもあるし、何より家に帰って仕事みたいなことしたくない(笑)。確かに、ずっと勉強をついて見てあげていたら成績(⁼偏差値)は伸びたでしょうし、さらに試験は出来たと思いますよ。でも、その”親が作り上げた成績”ってどうなんだろう。僕はその子自身がこつこつやるべきだと思っていますね。

中学受験はとても限られている世界

矢野:それにしても中学受験はお金がかかる世界。中学受験が出来る子というのはとても限られてると思いますよ、この日本でも。

りん:実際25%って言われますよね

矢野:私立ということだと1都3県までに広げると15%程度、もう7~8人に一人のレベルですね。そういう意味で、特殊な世界だと思います。

(編注:実は、私立中学進学率が25%を超えているのは東京23区でも10区程度しかないようです。日本全体で見ると私立中学に通う子の割合は7%程度しかありません。出典:私立中学校に通う割合はどの程度?|公益財団法人 生命保険文化センター)

子どものモチベ、勉強を仕向けるには?

K太郎:では”そんな中学受験や勉強”に上手く子供を仕向けるのはどうすればいいのでしょうか。

矢野:一概にはわからないものですね。こうすればこうなるという”方程式”はありません。ただ一つ言えるのが、「やる気スイッチ」というものがあるとしたら、他者は絶対押すことが出来ない、子供たちは自分で押すしかない。大人は子供たちがスイッチに手が届くように助けることしかできない。

教育っていうものはそういうものだと思うんですよ。だからこそ言っているのが「自ら”教”わり自ら”育”つのが教育」。で、子供一人一人によって、本人がやる気になるかならないか、どこがポイントかは僕にもわかりません。それこそこの業界を25年以上やってきていてもです。

同じことをやっても、ある人はやる気になるかもしれないしある人はやる気にならないかもしれない。むしろ、「なんでこの子、これを一生懸命やってるんだろうね」みたいなこともありますよね。

ただ、一生懸命やっている理由としてひとつ挙げられるとしたら、それはその子が勉強していて”楽しい”となっていること。社会科のちょっとした小話でもいいですよ。ちょっと自分で調べてみようかなって思えば、その子は前向きに学んでいる。

K太郎:何々の教科が好きだからと思えると、その教科が得意になるのは良くあります。

矢野:僕らの塾(スタジオキャンパス)が少人数(1クラス:8~12人)でやっている理由は、会話のキャッチボールがたくさん出来ることなんですよ。授業というのは子どもたちとキャッチボールするようなもの。でも、たいていのボールは取ってくれないですよ。投げて、投げて、投げてって。でも10球投げられた授業よりも100球投げられた授業のほうが取ってくれる確率は上がる。

スタジオキャンパスでは、”夢キャンパス”という、塾の先輩として色々な経歴の社会人の人たちを招き子供たちの前でお話ししてもらう、というものもやっていますが、それもキャッチボールの一つ。仮に”夢キャンパス”でやる気になってくれた子が1人でもいたらそれだけでも大成功ですよ。そういう『小さなきっかけづくり』をたくさん設けていく。他にもスタジオキャンパスでは生徒と1対1の面談もしょっちゅうやって「最近どうよ」って呼びかけたり。

やる気を出す方程式はないけれど、なにかこっちがアクションをして確率を上げることは出来る。だって何がきっかけでその子がやる気になったのかは解明できないですもん。

りん:私自身も言えたことですが、小学生の頃から見て、中学生の時に何に興味を持っているかなんてことは全く分からないです。

K太郎:出来る限り興味のきっかけを多くということですね。

学校選びは難しい

K太郎:さて、学校選びについてもお聞きしたいです。

矢野:学校選びは難しいですね。もしかしたら、所詮一つの器にしか過ぎない、という見方も出来るかもしれません。でもまあ、学校によって雰囲気は全然違いますよね。学校ごとに色というものは存在すると思います。

で、実は大きいのが、どんな先輩がいるかというのが大事だと思うんですよね。

K太郎:先輩ですか?

矢野:男女どちらにしても、皆先輩が理想像になるわけですよね。

りん:確かにそうですね。

矢野:まず、小学生の子供が志望校を選ぶ尺度はなかなか曖昧だったりするので、そこは保護者の方がある程度見てあげる必要はあるかなと。で、親御さんは志望する学校の高2や高3の先輩を見て、「こういう子になってほしいな」となる学校を選んであげるべきだとは思います。麻布(筆者りんの通っている学校)に進学して、文化祭でうぇーいって楽しい子になってほしいなと思えば麻布なんだろうし。どの学校に行くにしても、生徒の色というのはあるでしょう。

りん:ところで、実際麻布中学校に入った後、中学受験の時の偏差値って意外と学校の良さに関係ないなと思うような気がします。入る前は正直偏差値しか見ていないものでしたが。

矢野:まあでも、偏差値が関係ないっていうのはそれはちょっと違うと思いますよ。やっぱりね、偏差値が高い学校はそれだけ魅力があるということではあります。たとえば、学校内で交わされる友人同士の会話レベルも学校によって異なります。

難関校の魅力は難関の入試を潜り抜けた子が揃っているということにもあると思います。実は、普通に学校生活を送っているように思っているでしょうが、その学校生活が、傍から見たら刺激的なものかもしれない。

K太郎:確かに筑駒(K太郎が通う学校)の中にいると全く気付きませんでした。

矢野:筑駒や麻布は授業が自由奔放ですよね。でもそれって筑駒だから出来る授業、麻布だからこそ出来る授業なんだろなって僕は思いますね。

ところで、この学校良いわねと親が言っていたら、子もそういう気持ちになってしまうし、だから学校選びは親の意見になるだろうとは思います。それに加えて、女の子の場合は自分で受験したい学校の制服を見たりして決めることもあります。

”自ら教わり育つたくましい人間の創造”

りん:スタジオキャンパスさんの理念は「自ら教わり育つ、たくましい人間の創造」ですが、ここについて深められたらいいなと思います。たくましい人間というのは、どういう人のことを言うのでしょうか。たくましいという言葉にどういう意味が込められているんでしょうか。

矢野:例えば、人間関係などでも自ら切り開いていけることとか、会社に入ったとして最初は新入社員として何もできない中で自らチャンスをつかめるかとか。

教育の最終目標「自立」

矢野:僕は教育の最終目標は「自立」だと思っているんですよ。そもそも、教育っていうのは親のエゴで、なぜ親は子供を教育するのかと言ってしまえば、「自分がいなくても幸せだよね、もう大丈夫だよね」という幸せのため。この関係は別に親と子の関係に限った話ではないです。

りん:たしかにそうですね。

矢野:なんでこんなことを思いついたかとというと、まだ僕の子供が2、3歳のころに連れて遊びに行ったとき、ふと思ったんですよ。「まだ死ねないな」そして「ああ、教育ってこういうことか」って。自分で吸収し自分で世界を切り開いていける子。そういう人には将来の仕事もあふれるだろうし、自分からどんどん「教えてください!」って言えて教わってどんどん育っていく人はどこに行ったとしても上手くやっていけるんだろうなと僕は思います。

矢野さん自身たくましい方と自覚したのはいつ?

りん:それでは、矢野さん自身はいつごろたくましいと自覚されたのでしょうか?

矢野:え(笑)、全然たくましくないですよ。あんまりそんなことは思ってないです。まだまだだと思ってます。「俺はたくましいぜ!」と思った瞬間にだめになっちゃうでしょ。これからですよ。それでも中学受験という業界に25年くらいお世話になってますから、なにか恩返しできればと思いますね。コロナによる景気低迷で中学受験の世界は大打撃を受けそうです。だからこそ、中学受験の熱を冷まさないよう努めていきたい。

りん:たしかにリーマンショックの時は落ち込んでいました。では、なぜ矢野さんは教育系の中でもなぜ中学受験という業界に精通されているのでしょうか?

矢野:前、大手塾にいた時は中学受験も高校受験もやってたんですよ。個人的には中学受験の世界の方が好き。高校受験って内申点が絡んできたりとか、推薦入試が絡んできたりとか。なんかフェアじゃないという気がしてしまうんですよ。中学受験は基本的にペーパーが出来れば受かる物です。

K太郎実力が見られているということですね。

矢野:そしてもう一つが、単純に小学生が面白いんですよね。『おしりたんてい』読んで喜んでいる小学校3年生が、その3年後には大人向けの難解な評論を読みほどいているわけですよね。その成長過程に立ち会えるのっていうのは非常に面白いですよ。別人ですからね。

りん:確かに自分の弟に話しかけると、中学生の弟よりも小学生の弟に話しかけたほうがリアクションが大きいです!

教育者かつリーダー

りん:教育者としても、リーダーとしても、”人を動かす”のが大事な気がします。

矢野:”人を動かす”と思ったらダメですよ(笑)。この世で一番面白いのは”人”。そして、一番面倒くさいのも”人”です。動かすと思っている時点で相手の自主性を無視しちゃってるわけですから、どう動いてもらうかじゃなくて、自然と意図通り動いていくためにどう働きかけていくか。それは子供の教育も同じです、本当に。

「やる気出せ!」と言われても出ないものは出るわけないじゃないですか。だから、そのやる気スイッチを本人が自らが押してくれるか、それを導くことしかできない。「俺がやる気スイッチを押してやるぜ」ではなくて、「間接的にどう導いてあげようか」を考えたほうが、結果として人は動いていると思いますね。自分が動かすぜ、というのはなんだか横柄じゃないですか。

スタジオキャンパスの社員もそうだけど、こうしろああしろではなく、こうなったらいいよね~って話して。こうなったら子どもたちが嬉しいよねって。

K太郎:子どもでも大人でも変わらないものなんですね。

矢野:変わらないものでしょうね。それにしても、リーダーの一番大変なところは”指図してくれる人がいない”ということではあります。社長とかなるもんじゃないですよ(笑)

一同:(笑)

矢野:さて、子供たちに自ら教わり育つと言っているのだから、自分もずっと学び続けたいと思っているし、まだまだ僕は学び足りてない人間でこれからまだまだ勉強したいなって思うし。それこそ、至らない部分もあってまだまだこれからです。

何が成功とは特に思っていないですけど、いろんな人と出会って楽しく活気あふれる毎日が送れたらいいんじゃないかなとは思いますね。

K太郎:最後に一言お願いします。

矢野:日本という国はいわゆる”衰退途上国”なんですよ、と僕は思います。これから人口も減るし景気も良くないし、なんか暗い感じ。でもそんな大人が思い描いている悲観的な地図は鵜呑みにしないで、自分たちで変えられるんだと思ってほしい。きっと楽しい未来が待ってる。あんまり、おっさんやおばさんが言ってること当てにしなくてもいいですよって。もちろん、将来のことなんて全く想像できないですから、明るい未来を思い描いた方が楽しい人生を送れるんじゃないでしょうか。

りん:お話、ありがとうございました。楽しかったです!

K太郎:ありがとうございました。

矢野:ありがとうございました。