後編では中貴社さんに教科としての「社会」と教育について、お話を伺いました。
前編はこちら↓
中貴社さんこと田中則行さん
大学院にかけて歴史学(中国史・唐、博士課程)を研究。
中学受験の社会(国語)の個人指導塾講師。Twitterで主に中学受験社会について、時事問題を中心に紹介している。(中学受験の貴重な社会を発信する。)
「もともとうちの塾でも塾オリジナルで時事問題作っていたんですね。その経験を何とか形にしたいなと思って2016年くらいから毎年作っていました。生徒へは使っていたんですが、それをどうしようかなって時に自分の作ったものをもっと広めたいなということでTwitterを通して結果的に今にまで至っています。幅広くやろうとは思っていない。メインは社会科の毎年情報発信したほうがいいもの(=「時事問題」)や最近増えている思考力を問う問題を紹介し、中学受験の社会科が重要な教科である事を見せるためこれから来そうな問題を発信していきます。」
「社会」の本質的に面白いところとは?
学んだことをすぐ生かせる教科
-それでは、時事問題以外についての社会科の分野についてもお聞きします。「地理」・「公民」・「歴史」の面白いところとはどこでしょうか。
地理・公民は身近にあるものを実感できる分野であるというのは大きいと思います。学んだことを世の中で確認できる。他の教科に比べて、地理・公民は机の上だけで楽しむのではなく、身近な場所を対象としています。
例えば、日本地図を見てここに行ったことあると考えるのもそうだし、政治はなおさらテレビなどで見るでしょう。世の中の動きや身近の世界と距離が近い教科です。
過去を見て今を見て、未来を見据える教科
-実際、子供目線でも社会が身近だと考えている人は多いと思います。では、「歴史」はどのようなところが面白いでしょうか
覚えることが好きだった、ということが最初の私が歴史が好きになったきっかけでした。もちろん、大学に入るとレポートみたいな形式でひとつの新しい知見を見せる必要があります。
さて、歴史というのは過去を見て、今を見て、未来を見据える教科でしょう。例えば新型コロナウイルスについて見てみれば、必然的に医学史を見る必要があります。事実、スペイン風邪(Wikipediaより、スペイン風邪とは:1918年1月から1920年12月までに世界中で5億人が感染したとされ、これは当時の世界人口の4分の1程度に相当する。その中には太平洋の孤島や北極圏の人々も含まれた。死者数は1,700万人から5000万人との推計が多く、1億人に達した可能性も指摘されるなど人類史上最悪の感染症の1つである。アメリカ合衆国ではパンデミックの最初の年に平均寿命が約12歳低下した。)からマスクやワクチン開発の歴史を学びます。どんな分野に関しても歴史は必ず見ることになります。
そして、子供にとっては、戦国時代などの過去の話を”物語”として見て楽しむ人も多いように思います。
ー未来を見据える学問というのはかっこいいですね。中貴社さん自身は中国史を研究されていたとのことですが、なぜ中国史を専攻されていたのでしょうか。
”21世紀の世界を見るのに中国史は役立つのではないか。”と考えていました。
20年前の時点で、あの時の中国はこれから来そうという国でした。(例:経済特区の設置など)
実際に今日において、中国は世界に大きな影響を与えています。
(編注:現在の中国の世界に与える影響は大きいですね。人口は堂々の第一位14億人、むしろ1979~2015年にかけて一人っ子政策なんてものもありましたね。国の豊かさを示すGDPは世界2位(1位アメリカ、3位日本)。
一方、今現在は米中間の摩擦が大きな世界的問題となっています。2016年に大統領に就任したトランプ氏は、中国に対する貿易赤字を解消するため、2018年以降多くの関税を中国からの輸入品にかけてきました。2020年2月に「第1段階合意」がありましたが、当然日本だけでなく世界中に影響を与えました。これからどうなるか。GDP1位のアメリカとGDP2位の中国のこれからに注目をせざるをえません。)
小中高生へのアドバイス
-それでは、小中高生へアドバイスをぜひお願いします。社会科に関してどのように学んでほしいでしょうか。
学校でやってることは最低限覚えていてほしい
生徒が基礎知識を覚えていないと、それ弊害になる場合が多々あります。例えば、講師として中高生を対象に中間試験対策のために教える中で、時間がないため仕方なく試験範囲のことだけ話すことになり、正確に教えられないこともあります。
中学とかで身に着けていることは高校でも役に立つし、なによりも覚えていてほしい。もちろんいつ勉強のエンジンかけるかは人にもよりますが、学校で学んだことはまめに復習し、しっかり覚えておくべきです。
SDGsが一つの物差しになる
ー教養という意味では、社会科によってなにを学ぶべきでしょうか?
SDGsはひとつの物差しになります。(SDGsとは:日本語では、「持続可能な開発目標」。17の世界全体の目標と169のターゲット(例:1.1 2030年までに、現在「1日1.25ドル未満で生活する人々」と定義されている極度の貧困を、あらゆる場所で終わらせる。など。を示したもの。2015年の国連総会で決定され、2030年に向けた、行動の指針を示す。ちなみに、2000年にもMDGs、「ミレニアム開発目標」8つの世界全体のゴールと21のターゲット、というものもあり2015年までの目標。MDGsはSDGsの前身である。)
SDGsは2030年まで続くものです。そして、現代社会で抱えている問題をすべてカバーできるものだと思っています。SDGsを見据えることは社会的にも価値が高いことです。2030年、まさに今の中学受験生がちょうど大人になるとき達成出来てるか出来ていないかの時期になります。
社会に関心を向けてほしい
ある程度メディアに関心は持つべきで、社会の関心度が高い・価値のある情報を吸収し、自分の考え方を持つといいと思います。(編注:スマホでニュースを読むのも良し、学校の先生に聞いてみるのも良し、社会問題に関する絵本や文庫本を読んでみるのも良し。)
子供たち自身が自分で発見した課題解決のために何ができるか。現在、世界でアクティブラーニングが流行っていますが、要はそれは自分の気になったことを解決するという学びのことです。そのためにも社会に関心を向けてほしい。これからITが強くなる中で人間が出来る点のひとつは社会に関心を向けることだと思っています。
学校と塾の価値とは?
学校は社会生活向けで塾は受験向け
社会科をひとつとっても、塾または学校で勉強したときに学び方の切り口が違い、当然、それぞれの価値があります。塾で受験勉強を通して知識をたくさん入れ物事をとにかく覚えた後に自分で考える人もいるし、学校という疑似社会生活の授業の中で物事に関心を持ち自分で考える人もいるはずです。どっちに自分が合うかは人にもよるはず。
学校でも塾でもどっちでも学べるし、それぞれの役割があります。
ただ、受験目的ために学校を休むのはよくない。それは学校から逃げる名目になっていないでしょうか。一部の小学生YouTuberなど、学校に行かずにこれからの人生を成り立たせられるならそれは特殊事例としていいかなとは思うが、あくまでもそれは特殊事例なので。
さて、学校と塾どちらで学ぶ方が良いとか、本人が自分で考えられる人ならその考えに合わせていいし、仮に分からないなら、塾と学校どっちでもいいのでまずは素直に学んでもいいと思います。学んだ後に塾もしくは学校に疑問を持つならばそれからでも遅くないでしょう。一定数、塾or学校に行ってみて何か違うと思う人はいるはずです。
(編注:筆者は現在、麻布学園の課題のために学校教育の意味を考えていますが、学校は受験勉強のために作られているわけではない。という割り切りと理解は大事だと思います。最初から学校とはそういうものだと思えば、学校に行かない理由はどこなのか、中学受験が全てなのかという視点が持てる気がします!)
小学生に教える悩み。
人を相手に教えているという意識
ーでは、小学生を相手に教えるにあたって、どのような意識をされているのでしょうか。講師の目線から意識されていることをお聞かせください。
それは「その子のことをちゃんと見ること。」です。
人を相手に教えているという意識が大事。教えている相手は小学生や中高生という立場でありながらも、当然”一人の人間としてちゃんと接していかなきゃ”と思っています。
教えて出来ればいいというだけではなく、一人の人間として接し、教える。
(編注:「なんでもかんでも親の言う通りにしろ!」というのは、避けたいところです。一方で教えないと出来ないことも多くあるはずです。子どもの感性を大事にすることに加え、たまには子どもを大人扱いしてみるのはどうでしょうか?子どもにとって、大人扱いは嬉しいことが多いです!)
最後に、教育においては最初はゆったりとした教育をすべきでしょう。つまり、最初から具体的なこと(編注:子供に対しては怒らないなど)をすると間違った方に行く可能性があります。ゆっくり、時間を持ち、子供に合うものを見極めるのが大事です。
おまけ~麻布と筑駒の入試問題について
2018年の麻布の社会ではネット炎上の話でした。
あの問題はユニークなんだけど面白くて社会的重要なテーマを持ってくるなという印象です。(インターエデュさんのサイトに麻布学園の過去問があります。)
麻布や筑駒の社会のリード文はそれぞれ面白いなと思います。先まで見据えたような。仮に受からなくても、先のことまで考えさせるような問題を作ってきますよね。解いてて面白いです。
それにしても、良くも小学校教科書レベルでこんな難易度の問題を作るなと思いますし、だからこそそんな問題を作れる学校は生徒をちゃんと育てられるんだなと思います。
ー中貴社さん、インタビューありがとうございました!
この記事を書いたライター
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