都内進学校校長ロングインタビュー 開成中/高 柳沢幸雄 #3「AI時代だからこそ、開成は唾の飛ぶ距離の授業を大切にする」





[第三回]

都内進学校の校長先生に現役生がホンネを突撃インタビュー!
日本で最も東大への合格者数が多い開成学園柳沢幸雄校長です!

柳沢校長ロングインタビュー第三回では、日本の教育改革への考えとそれに対する開成学園の取り組み、そして気になる開成学園の今後の入試の方向性についてお話を伺いました。
第1回第2回のインタビューはこちら。)

#1:グローバル化が喧伝されるのは、未来が輝いていない時代だから
#2:親は子供に「餌巻き」をしろ!

#3:AI時代だからこそ、開成は唾の飛ぶ距離の授業を大切にする(★)

AI時代だからこそ、開成学園は唾の飛ぶ距離の授業を重視

―2020年に向けて大学入試改革など、日本の教育制度は大きな変化を迎えますが、一連の教育改革についてはどう考えていますか。

英語に関して言えば、4技能(喋る、聞く、読む、話す)を重視する方向性は正しいと思っています。従来の日本の教育は読み書きに偏っていました。日本語は文字のない言語だったため、文字を輸入することで新しい知識を学んできました。古くは漢学であり、江戸時代には蘭学です。日本は東海の孤島であったため、外国人と喋る必要はなく、知識階級でさえも外国語も読み書きが出来れば良いといった認識でした。

明治維新で蘭学から英語となってもその意識は変わりませんでしたが、現代は日本を訪れる外国人の数が飛躍的に増加し、知識階級だけが外国人と付き合う時代ではなくなっています。ゆえに、話す・聞くといった技能が重要になってきているのだと思います。大学の学者は相変わらず読み書きが重要と行っているが、知識階級なので当然ですね。

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訪日外国人の数は今や年間3000万人(2018)を超えている

 

―柳沢校長は米ハーバード大で教鞭を取られていた時期もあります。アメリカと日本の教育の違いはどこにあるのでしょうか。

日本とアメリカの教育の一番の大きな違いは学習指導要領の有無です。日本は全領域をまんべんなく学習するのに対し、アメリカの高校生は狭い分野を深掘りすることが推奨されます。近年、アメリカではSTEM教育が注力されていますが、深く学ぶ分野としてSTEMの領域は適しているのだと思います。

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―柳沢校長にとってどちらの教育制度の方が理想的でしょうか。

私は日本の教育の方が良いと思っています。学習指導要領によって、生徒は一応全ての分野を広く浅く経験できるので、自分の興味のあるものに出会う可能性はぐっと高まります。これは先程から述べている、「餌巻き」と同じですね。色々な生徒がいるので、それぞれの生徒が自分の興味分野を見つけられることが理想です。

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―AIが持て囃される時代ですが、開成では中学にBASIC、高校にVBAを学びますね。このような言語を今、学ぶ意図は何でしょうか。

BASICは私がシステムエンジニア時代に登場した言語ですが、現代でも様々なプログラムの基礎を作っています。VBAはBAISCの流れを継いた言語です。BASICも時代が変わり陳腐化すると思いますが、初めてコンピューター言語を学んだ時に感じた楽しさや本質は一生自分のものになります。

「プログラミング basic」の画像検索結果
BASICやCOBOLは現在では流行りの言語ではないが、今も多くのシステムで使用されている

言語が変われど、基礎や学び方の本質をわかっていれば習得は苦労しません。プログラミングというものの楽しさ・本質を感じてほしいと思っています。

なお、教育におけるプログラミングはフローチャートを書けるまで出来れば十分だと思っています。無意識で行っている判断一つ一つが認識出来れば良いです。ですが、それだけでは生徒が満足しないので実際にプログラムを書いたりもしています(笑) 

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―また、他の学校では授業のIT化が結構進んでいるところもありますが、開成学園の授業は紙が中心です。目的はあるのでしょうか。

開成の教員は教室に立つこと、対面授業を重視しており、それだからこそわかることがたくさんあると思っています。例えば、ITや言葉では伝わらないような生徒からの反応を見ることが出来ますよね。数学では授業を聞いていない生徒も出来るやつだから放っておけといったことを言う教員もいます。それが教員へのフィードバックになるのです。
ただの知識の伝達なら自分の部屋で十分で、学校に来る意味はありません。開成の教員は唾の飛ぶ距離の授業が大好きです。五感を使って授業をしています。

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―今後も授業のIT化は進めないのですか。

IT化のメリットは情報量を増やすことが出来ることです。全教室にプロジェクターを設置し、言葉だけでは表現出来ないものを表現するための方策は従来から進めています。

 

一方で、IT化にはコストがかかります。使われなければ投資がペイしません。実際のところ、紙の方がコストも手間もかからないです。

開成の授業は全てオリジナルであり、個性ある教員による手作りによって成り立っています。授業が汎用品でないため、一般的にIT化された教材は活用出来ないことが多いです。IT化は手段であって、高い質の授業を提供することが本分であることは忘れてはいけないですね。

 

開成学園は、常に時代のトップを走りつづける

―大学入試改革など様々な変化が日本の教育業界にも起こっていますが、開成学園が今取り組んでいることはどんなことでしょうか。

僕に言わせれば、大学入試改革がようやく開成に追いついてきた。長い記述問題の出題など、昔から開成学園が取り組んできたことばかりです。

だからこそ開成学園は変わらないといけないと思っています。日本人は方向性が決まったらキャッチアップすることが得意。追いつかれたら困るから、開成は更に先を走ります。開校150周年の新校舎も未来を想定して作っている。決して時代のキャッチアップではない。

開成学園は常に新しい挑戦をし続けていますが、学校組織というものは急に変えられるものではありません。中1から順に試して、結果が出てようやく全体を変えていくことが出来ます。色々なトライアルの集合体として学校が変わっていくのです。

「開成 新校舎」の画像検索結果
開成学園は開校150周年を記念して、新校舎を建設する

 

―新しい時代の変化に合わせて開成学園の入試も変わるのでしょうか。

当然、検討はしています。開成学園のそれぞれの教員が考え、トライアルの結果を見ながら、全体として統合していくのです。

開成学園は校長の一声では動きません。全体として東大や医学部を目指すこともしないし、海外大学を目指すこともしない。様々な要素の積み重ねが開成学園を形作っていると思います。

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―中学受験に英語を追加することはあり得ますか。

実はそれも検討はしています。ただ、ウチの入試は社会的に大きな影響力があるため、追加するにしても2,3年前には告知するつもりです。やるかやらないかは決めていないが、やるとしたらこういう形というのは考えています。

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―開成学園が欲している生徒とはどんな生徒でしょうか。

一つの目標に向かって最後まで達成できる生徒ですね。これは我が校の入試制度で選ぶことが出来るが出来ると思っています。入試はあくまでペーパーテストですが、入学以降は成績を追求するのは良くない。社会に出ればある分野のオタクが評価されるようになります。決してペーパーテストの成績ではありません。親御さんも、受験前と受験後で価値観を切り替え、中での成績競争はあまり価値がないことを伝え、子供の価値観を変えさせるような指導が必要ですね。

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―最後に、開成学園を目指す親子に伝えたいことはありますか。

受験はイス取りゲームと割り切って点数はしっかり取って欲しいと思います。

将来のことを考えると、自分のことを発信する力、はしっかりと身につけて損は無いでしょう。インターネットが普及しようとも、対面のコミュニケーションでしゃべる訓練は重要性が増していると思います。

更に、先程も述べましたが、一つの目標を達成できる力は重要です。根性論ではなく、粘り強さ・諦めない心を持たせる教育が求められています。

地方に住む親子の方であっても、インターネットの普及により、アクティブに情報やネットワークにアクセスしようとすれば、地方と東京の格差は殆ど無くなりつつあります。ぜひ、現代だからこそ出来る教育を使いこなしてください。

開成学園は中学から入っても、高校から入っても楽しい学校です。自分の人生を懸けて挑戦する領域を見つけるために、ぜひ入学を検討してみてください。

柳澤幸雄(やなぎさわ・ゆきお)
1947年生まれ。東京大学名誉教授。開成中学校・高等学校校長。開成高等学校、東京大学工学部化学工学科卒業。71年、システムエンジニアとして日本ユニバック(現・日本ユニシス)に入社。74年退社後、東京大学大学院工学系研究科化学工学専攻修士・博士課程修了。ハーバード大学公衆衛生大学院准教授、併任教授(在任中ベストティーチャーに数回選ばれる)、東京大学大学院新領域創成科学研究科教授を経て2011年より現職。シックハウス症候群、化学物質過敏症研究の世界的第一人者。

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